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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)969号 判決

主文

原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人野口武彦訴訟代理人清瀬一郎、同内山弘の上告理由(一)について。

原審の確定した事実によれば、上告人先代野口寿彦は、明治四三年一一月一日その所有にかかる鳥取市東品治町一六九番四宅地二一八坪六二のうち一一六坪八五三(本件土地の元地)を、被上告人先代矢谷米蔵に対し、堅固でない建物の所有を目的とし、期間を一〇年(明治五三年一〇月末日まで)と定めて賃貸したというのである。ところで、一〇年の賃貸借の期間は、民法上は長期のものに属するから(同法六〇二条、三九五条参照)右貸賃借における借地証書であることにつき当時者間に争のない乙四号証中「本年拾壱月ヨリ明治五拾参年拾月迄借受ヶ申候」と記載されている部分をもつて、所論の如く賃料協定期間又は例文と解することはできない。

同(二)について

原審は、被上告人先代は、前掲賃貸借契約に基き、本件地上に建物を建築所有することによつて、本件土地を占有し来り、期間の満了した大正九年一〇月末日以後も、被上告人先代において、又その死亡後は被上告人文造において、引き続き右宅地を占有していたこと、賃貸人たる上告人先代がこれを知つて異議を述べた事を窺うことができないことを各認定し、右賃貸借は大正九年一一月一日以降前賃貸借と同一の条件を以て更新せられたものと判断したが、期間の定ある賃貸借が更新されたときは、爾後は原判示の如く期間の定のない賃貸借となるものと解するのが相当である(昭和二六年(オ)第八一号、同二八年三月六日第二小法廷判決参照)。そして、昭和一六年三月一〇日同年勅令二〇一号により借地法は鳥取市に施行されるに至つたのであるから、本件土地の賃貸借は、借地法一七条二項により、期間の定のないものとなつた大正九年一一月一日から起算し、二〇年毎に期間を更新したものとみなされ、最後の更新の時である昭和一五年一一月一日から、同条一項により、更に二〇年の期間を有するのこととなつたわけである。ところで昭和二七年四月一七日鳥取市におこつた火災により、同市に罹災都市借地借家臨時処理法が施行せられた結果として、右借地権の存続期間にも影響を及ぼしたと認めるベきであるが、この点は別として、借地法一七条の解釈に関する限り原審のなした判断は正当てあつて、これと異る見解の下に、同条二項の期間は原契約の成立した明治四三年一一月一日から起算すべきものとする論旨は、採用し難い。

附帯上告人矢谷文造の上告について。

上告人文造は、原審において全部勝訴の判決をえたものであるから、同人は上告をなす利益を有しないというべきである(昭和二九年(オ)第四三一号、昭和三一年四月三日第三小法廷判決参照)。

附帯上告人矢谷寿雄の上告理由三について。

原審は、昭和一八年九月一〇日の鳥取地方大震災の当時附帯上告人文造は、本件宅地上に倒壊家屋の残材を利用して居宅を建築し、その後附帯上告人寿雄がこれに居住するにいたつたが、同人の右家屋に対する利用関係は、使用貸借であると認定した上、使用貸借上の借主にすぎない寿雄は罹災都市借地借家臨時処理法三条による賃借権譲渡の申出をすることができない旨判示した。しかしながら同法三条、二条にいわゆる罹災建物の借主とは、賃貸借契約上の借主のみならず、使用貸借上の借主を含むものと解するのを相当とするから、若し、寿雄が主張する如く、右建物が昭和二七年四月一七日の鳥取市におこつた火災のため全焼し、当時右建物に居住していた者として、文造に対して借地権譲渡の申出をなし、文造がこれを承諾したものとすれば、文造の借地権は寿雄に譲渡せられ、賃貸人たる附帯被上告人は、同法四条によりこれを承諾したものとみなされる筋合である。原判決は、前記法条の解釈を誤つた結果、右借地権は、なお、文造に存するが如く判示したものであつて、右の違法は原判決に影響を及ぼすこと明らかである。

以上のとおりであつて、附帯上告人矢谷寿雄の上告はその理由があるから、同人の請求を排斥した原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻すベきものである。なお、上告人野口武彦の上告はその理由がなく、附帯上告人矢谷文造の上告はその利益がないが、本件は、民訴七一条、六二条により、全員につき合一にのみ確定すべき場合であるから、右各上告については、主文において言渡をなすべきものではない。

よつて民訴四〇七条一項後段に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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